アザラシ型位置決め機構の移動原理


基本的な移動原理 | 3自由度機構の移動原理


基本的な移動原理

 まず,図1に示す一軸の構成を用いて基本的な移動原理を説明する.一軸用移動機構は2個の摩擦調整機構A,Bと1個の伸縮素子から構成される.伸縮素子の両端に摩擦調整機構を取り付けそれをベース上に置く.摩擦調整機構の斜線は,摩擦力の強さを表す.摩擦調整機構Aは一定摩擦力とされており,摩擦調整機構Bのみがオン・オフ制御される.摩擦調整機構Aにおける一定摩擦力を FA,摩擦調整機構Bの摩擦力を強めた時の摩擦力をFBOn,弱めた時の摩擦力をFBOffとすると,

        (1)

の関係が成り立つように調整しておく.右向きに移動する場合には,以下のサイクルを繰り返す.

  1. 伸縮素子を縮めておき,摩擦調整機構Bは弱めておく.
  2. 伸縮素子を伸ばす.摩擦調整機構Aにおける摩擦力 の方が摩擦調整機構Bにおける摩擦力 より大きいため,摩擦調整機構Bが右向きに送られる.
  3. 摩擦調整機構Bを強める.
  4. 伸縮素子を縮める.摩擦調整機構Aにおける摩擦力 の方が摩擦調整機構Bにおける摩擦力 より小さいため,摩擦調整機構Aが引き寄せられる.これで,1の状態に戻る.

 左向きに移動する場合には,伸縮素子の伸縮を逆にする.この動作は,アザラシが後足をすりながら移動する様子に似ているため,アザラシ型機構と呼ぶことにする.

Fig. 1 Movement principle of 1-DOF Seal device

 伸縮素子もオン・オフ制御するのが粗動モードであるが,伸縮素子の伸縮をアナログ的に制御するとウォーキングドライブ機構と同様に,1サイクル分の移動量を補間するように変位させることもできる.

 本機構では、通常避けられるべき摩擦部分を受動素子として積極的に利用することで、制御される能動素子を減らしているという特徴を持つ。

 伸縮素子には、圧電素子や磁歪素子などの固体変位素子を用いる。摩擦調整機構には電磁石、静電吸着パッドなどを用いることができ、特に一定摩擦力を与える摩擦調整機構Aにはコイルばねなどによる押し付け機構も用いることができる。また、オンオフ制御する摩擦調整機構Bには、質量を急速に移動させるときに発生する衝撃的な慣性力を用いることもできると考えられる。

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3自由度機構の移動原理

 これまでに,2通りの構造を提案した.ひとつは摩擦機構を一直線上に並べた機構,もうひとつがL字型の機構である.

 まず,摩擦機構を一直線上に並べた機構について説明する.

 xyθの3自由度の移動が可能な機構の構成を図2に示す。この機構は、2個の伸縮素子A、Bと2個の制御される摩擦調整機構A、B、1個の一定摩擦力を与える摩擦調整機構C、それらをつなぐステージ、ステージを支えるための脚から構成される。2個の伸縮素子は互いに直角である。摩擦調整機構の中心が一直線になるように配置する。本機構では伸縮素子をオン・オフ動作させることで粗動となり、広範囲な移動が可能となる。また、摩擦調整機構CA、CBを固定して伸縮素子をアナログ的に伸縮させると微動が可能である。

 受動素子としては、1個の一定摩擦力を与える摩擦調整機構を用いる。これにより、制御される能動素子として2個の摩擦調整機構と2個の伸縮素子とを用いるだけで、平面内の3自由度を得ることができるようになる。

Fig. 2 Structure of Seal Device with 3 degrees of freedom

 各方向への移動原理を図3に示す。同図(a)は+x向きの移動原理である。

  1. 摩擦調整機構A、Bの摩擦を強める。
  2. 伸縮素子Aを伸ばし、Bを縮める。すると、ステージは+x向きに移動する。
  3. 摩擦調整機構A、Bの摩擦を弱める。
  4. 伸縮素子Aを縮め、Bを伸ばす。ステージは摩擦調整機構Cで固定されているため、伸縮素子を伸縮させてもステージは移動しない。これでもとの状態に戻る。

 伸縮素子の伸縮を逆にすることで逆向きに移動することもできる。

 同図(b)、(c)はそれぞれ+y向きおよび-θ向きの移動原理である。これらの向きにも同様にして移動することができる。θ方向に移動する場合には、同図(c)では摩擦調整機構A、Bを制御しているが、どちらか片方だけでも移動可能である。

(a) +x motion
(b) +y motion
(c) -theta motion
Fig. 3 Principle of displacement of device with 3 DOF

 次に,L字型の機構について説明する.これは一般に用いられているインチワーム機構でxy動作をさせるものと同じ構造を持つ.

 XYθの3自由度の移動が可能な機構の構成を図4に示す.この機構は,2個の制御される摩擦調整機構CA,CB,1個の一定摩擦力を与える摩擦調整機構CC,それらをつなぐ2個の伸縮素子PA,PBから構成される.2個の伸縮素子は互いに直角である.本機構では伸縮素子をオン・オフ動作させることで粗動となり,広範囲な移動が可能となる.また,摩擦調整機構CA,CBを固定して伸縮素子をアナログ的に伸縮させると微動が可能である.

Fig. 4 Structure of L-shaped Seal Device with 3 degrees of freedom

 各方向への移動原理を図5に示す.同図(a)は+x向きの移動原理である.

  1. 摩擦調整機構CA,CBの摩擦を弱める.伸縮素子PBを伸ばすと,ステージは摩擦調整機構CCで固定されているためCBだけが移動する.
  2. 摩擦調整機構CBを強める.
  3. 伸縮素子PBを縮める.摩擦調整機構CCの摩擦力よりCBの摩擦力の方が大きいため,機構全体が+x方向に移動する.
  4. 摩擦調整機構CBを弱める.これでもとの状態に戻る.

 伸縮素子の伸縮を逆にすることで逆向きに移動することもできる.

 同図(b),(c)はそれぞれ+y向きおよび+θ向きの移動原理である.これらの向きにも同様にして移動することができる.θ方向に移動する場合には,同図(c)では伸縮素子PAまたはPBのどちらか片方だけを制御することで回転移動が可能である.同図(d),(e)に示すように,伸縮素子PA,PBを同時に伸縮させることで,xy軸に対して45°の方向へも移動可能である.

Fig. 5 Principle of displacement of L-shaped device with 3 DOF

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Last modified on 07/05/2003 at 13:15:27 by Katsushi Furutani