実際に円筒形の砥石を試作し,研削性能を評価した.砥石形状は放電加工機の主軸に取り付けられるよう,脱着が容易な軸付き砥石とした.砥石の外径は,砥粒層の形成に多くの時間がかかり過ぎず,研削加工においても十分な周速を出すことが可能なように18[mm]とした.Fig.
14に軸付き砥石の台金寸法を示す.台金には,硬化処理を施していない合金工具鋼SKD11を用いた.
砥石台金外周面への放電堆積加工の方法をFig. 15に示す.平面に均一に堆積させる場合には,電極を回転させることがある.今回は,砥石台金を回転させながら電極面に垂直にサーボをかけながら設定された位置まで送った.円筒面への厚い堆積の可能性を調べるため,電極には砥粒を含まないWC-Co圧粉体電極を用いた.放電加工の電気条件はTable
9のものを用いた.電極の回転数は毎分10回転とした.
Fig. 14 Core of mounted wheel |
Fig. 15 Deposit process on cylindrical surface without translation |
しかし,この砥石台金の回転・送り制御では,砥石台金には均一な堆積層が形成されなかった.Fig. 15に示した方法による放電堆積加工の進行の様子の模式図をFig. 16に示す.同図(a)の加工初期では,砥石台金の外周面と圧粉体電極の加工面の最も近い場所において放電が発生し,電極材料が台金外周面に不規則に付着していく.同図(b)の数回転後では,数10[mm]の付着物がまばらに側面に形成される.同図(c)の何回転もした後では,既に付着した付着物と脱落によって凹凸のある圧粉体電極との最も近い部分において放電が生じるため,堆積している部分のみで放電が起きる.その結果,堆積物の高さはますます増加し,未加工の部分を残しながら放電が進んでいく.最終的には,放電は限られた場所にしか生じなくなり,集中放電によって凸部の崩壊と成長が繰り返される.したがって,砥石台金の回転・送り制御では均一な堆積層が得られなかった.
(a) Beginning | (b) After several rotations | (c) After many rotations |
Fig. 16 Progress of deposit on cylindrical surface without translation |
そこで,砥石台金の外周面と圧粉体電極の加工面が一対一で対応するように,台金の回転運動に応じて圧粉体電極と平行に並進運動を加えた.Fig. 17にその概念図を示す.サーボ送り方向は圧粉体電極に垂直のままとした.したがって,半径rを持つ砥石台金は,2πrの送り量で1回転して堆積加工が終了する.このラック・アンド・ピニオン機構と同様の相対運動によって,砥石台金の新しい外周面と圧粉体電極の未加工面の面を常に対向させることができるようになり,安定した堆積加工が期待できる.
Fig. 17 Deposit process on cylindrical surface with translation |
砥石台金の外周長さ57[mm]を持つ一体の圧粉体電極は,製作が困難であった.そのため,直径16 [mm]の円形圧粉体電極を直線状に4個並べて,電極とした.Fig. 18に軸付砥石台金への堆積加工時の様子を示す.台金のホルダで,台金の振れが10 [μm]以下になるよう調整してから,加工を開始した.Fig. 19にWC-Co堆積層形成後の軸付き砥石を示す.圧粉体電極による半円形状が砥石台金の外周面に形成されるとともに,均一で厚い堆積層を得ることができた.この形状はセグメント砥石のように砥粒層との間にある間隙を切り屑の除去や加工液の供給に利用することができる.円形の圧粉体電極を長方形に加工して配置すれば,砥石外周の全面にわたって堆積加工することも可能である.堆積層の形成時間は,堆積させる堆積層厚さにもよるが10〜20 [分]であった.
Fig. 18 Appearance of core and green compact electrode |
Fig. 19 Appearance of deposit on mounted wheel surface |
形状フィードバック型加工で砥粒層を整形した結果をFig. 20に示す.0回は最初の放電堆積加工時を示し,■は堆積加工,×は除去加工を示す.堆積加工条件はTable 9に示すものを用い,除去加工条件はTable 11に示すものを用いた.電気マイクロメータの脱着は手作業で行った.厚さ300[mm]の堆積層を得るように加工し,最終的な直径の誤差は10[μm]であった.表面粗さが20〜30[μmRy]程度であったため,直径の誤差をこれ以上低減するのは困難であると考えられる.
Fig. 20 Progress of thickness amendment by shape feedback machining |
Table 11 Electrical conditions for EDM truing
Polarity of electrode | Positive |
Discharge current | 15 [A] |
Pulse duration | 16 [μs] |
Pulse interval time | 256 [μs] |
Fig. 17に示した方法と同様にして,砥粒層を軸付砥石の外周面に堆積させた.電気条件はTable 9と同じである.砥粒は#150または#400のSiCを用い,10[wt%]混合した圧粉体電極で堆積加工を行った.Table 12の条件で放電ツルーイングした後の砥粒率と表面粗さをTable 13に示す.5章で平板上に堆積した場合と砥粒率は同程度であった.
Table 12 Electrical conditions for EDM truing
Polarity of electrode | Positive |
Discharge current | 15 [A] |
Pulse duration | 16 [μs] |
Pulse interval time | 256 [μs] |
Table 13 Percentage of grain and roughness
Grain | Percentage of grain [vol%] | Roughness[μmRy] |
None | 0 | 28.7 |
#150 SiC | 6 | 19.2 |
#400 SiC | 10 | 30.8 |
これらを用いて縦型グラインディングセンタで炭素鋼を研削した.研削条件をTable 14に示す.#400 SiCを混入した砥粒層を持つ軸付砥石で研削加工した結果の例をFig. 21に示す.砥粒層が摩耗するまで加工が進行したが,設定量の300[μm]まで研削できた.しかし研削比は0.5であり,砥石の摩耗体積の方が多かった.#150SiCを混入した砥粒層を持つ軸付砥石では,260[μm]まで切り込んだところで砥粒層がすべて摩耗したため,加工を中止した.砥粒率が低いことと,軸付砥石のシャンク部の剛性が低いことが原因であると考えられる.
Table 14 Grinding condition with mounted wheel
Revolution | 12000 [min-1] |
Peripheral speed | 11.3 [m/s] |
Grinding fluid | Soluble oil |
Feeding speed | 3.3 [mm/s] |
Depth of grinding | 20 [μm] |
Grinding width | 8 [μm] |
Total depth of grinding | 300 [μm] |
Workpiece | JIS-S50C |
Fig. 21 Result of grinding with mounted wheel including #400 SiC |
砥粒の保持力は,結合剤の強度の影響を大きく受ける.5章では堆積層を垂直方向に押すロックウェル硬さ試験による静的な評価をした.しかし,砥粒層を液中放電表面処理で堆積,再形成した場合には,研削抵抗の接線方向成分により堆積層のはく離や脱落が生じる恐れがある.そのため,実際の研削により結合剤の動的な強度を調べるため,砥粒を混合しない軸付砥石を製作した.
まず,Fig. 14に示した砥石台金上に新規に堆積層を形成しアルミニウムを研削加工した.次に,この研削加工により摩耗した堆積層上に同じ堆積層を再形成し,そしてさらに研削加工した.最初の研削加工終了時には,堆積層表面に付着した不純物や汚れの除去はしなかった.堆積加工ではTable 9と同じ電気条件とした.堆積層のツルーイング後の表面粗さはTable 13に示すように28.7[μmRy]であった.研削加工条件をTable 15に示す.炭素鋼を被加工物とすると結合剤のみではほとんど加工できないため,アルミニウムとした.また,目詰まりを低減するため,加工速度をTable 14に示した条件より増加させた.砥石台金に新規に堆積した砥粒層では研削比が15.9であり,摩耗した砥粒層上に砥粒層を再形成したものでは13.7であった.加工後の再形成した砥粒層の外観をFig. 22に示す.台金上に新規に形成した砥粒層と同様に大きなはく離や脱落が観察されなかった.
Table 15 Grinding condition with mounted wheel for test of recycled abrasive layer
Revolution | 24000 [min-1] |
Peripheral speed | 23.4 [m/s] |
Grinding fluid | Soluble oil |
Feeding speed | 3.3 [mm/s] |
Depth of grinding | 10 [μm] |
Grinding width | 10 [μm] |
Total depth of grinding | 400 [μm] |
Workpiece | Aluminum |
Fig. 22 Appearance of worn mounted wheel |
堆積層形成時の電気条件は,WC-Coを含む堆積層に合わせた条件とした.そのため,それ以外の物質は堆積しにくい.したがって,研削後の砥粒層上に付着している被加工物やその他の不純物は放電により除去され,新たに形成した堆積層と台金上に残存していた砥粒層との密着性が低下しなかったと考えられる.また,1回目の研削加工で残存した堆積層が薄く,台金が露出していた部分が多かった.そのため,初回の堆積加工時に台金へ堆積したのとほぼ同じ状態であったと考えられる.これも理由の一つであると考えられる.
以上のことから,本方法により砥粒層の再形成が可能であると考えられる.
Last modified on 07/26/2003 at 08:46:30 by Katsushi Furutani