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研究内容Research activities

 最近、IoT(もののインターネット)、人工知能、ディープラーニング、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、スーパーハイビジョンなどIT技術の革新的変革(図1)が立て続けに立ち上がり、第4次産業革命と呼ばれています。これを実現すするためには、大量のデータ保存が必要です(図2)。Googleがデータセンタ増設のため電力供給を依頼したところ連力会社から断られた話は有名ですが、なぜならこのデータセンターは原発1基分の電力を消費するからです。したがって、IT機器の省電力化は喫緊の課題と言えます(図3)。また、人工知能のデータ処理能力向上も喫緊の課題となっています。
 そこで、当研究室では、来る第4次産業革命貢献を目指してスピンエレクトロニクスを利用した@革新的省電力大容量メモリとA革新的省電力高速処理可能なスピンメモリ&ロジック、更に全く新しいスピン発電、Cトポロジカル超格子による磁気応答を利用した新機能デバイスの基礎研究を行っています。
 @のメモリの研究では、伝導電子のもつスピントルクやスピン軌道トルクに注目いしています。従来、磁気情報は磁界で操作してきました。電流から磁界を作ることができますが、この磁界は広い空間に広がる間接効果なのでエネルギ効率が問題となります。しかし、伝導電子のスピンと磁性原子の磁性の元である3d電子はフェルミ面付近で直接相互作用するため、効率よく磁気情報を変化させることができます。この基本原理は2004年に京大のグループが面内磁化膜の磁壁を電流で動かす実験に成功しました。しかし、その電流密度は非常に大きな値(1x1012A/cm2)で上記期待通りのものではありませんでした。これを解析し、垂直磁化Co/Ni多層膜からなる磁性細線を利用すると電流密度は(3x1011A/cm2)と半減させることができました。しかし、それでもまだ大きな電流密度です。そこで、我々はフェリ磁性で飽和磁化の小さな垂直磁化膜であるTbFeCoを使って磁壁を電流で動かす実験を行ったところ電流密度は更に1桁(3x1010A/cm2)下げることができました。これは信州大学よりわずかに低い値です。この原因として様々な可能性が考えられるため、一つ一つ実証実験を繰り返しています。
 この実験結果を左下図3に示します。TbFeCo磁性細線を写真のように2本作成しました。これにより再現性良く2本の磁性細線上を磁壁が同じように動くかどうか確かめることができます。まず初めに図4(a)に示したように保磁力以上の大きな外部磁界を印加して磁性細線を一方向に着磁します。次に図4(b)のように左端に磁区を記録し、パルス電流を右電極から左電極に向かって印加します。すなわち伝導電子は左端から右端に向かって流れます。記録磁区には2つの境界部が見え、狭い2枚の磁壁(磁壁幅は10nm以下)が存在していることがわかります。このパルス電流の伝導電子は白向き(上向きスピン状態)で流れています。しかし、スピンの捻じれている磁壁部分では伝導電子と磁壁部分の磁性原子の3d電子のスピンの間には大きな角度差があるために互いに角運動量を保存する動きをします。この力をスピントルクと呼んでいます。
 図4(b)を見てみると、左自端に記録された磁区の左側の磁壁と右側の磁壁は電子の進行方向に移動していることがわかります。さらにもう一つ左側に記録磁区を追加記録して磁壁駆動パルスをもう一つ注入すると、図4(c)に示したように今記録した磁区と先ほど移動させた磁区の両方が同時に移動していることがわかります。しかも、その移動距離はどれも同じです。もしも流す電流が作る磁界で磁壁が動くとすると、右側磁壁と左側磁壁は互いに逆向きに動くはずです。今回の実験結果は両側の磁壁はどちらも電子の流れに沿って移動しています。これは本方式が磁性細線メモリとして利用できることを意味しています。これがテーマ1の磁性細線スピンメモリの研究です。
 なお、この磁性細線はSi基板上にリフトオフ法で作成しました。しかし、この細線エッジは荒れており、磁壁移動の妨げになっていることが想像できます。以前、私は光磁気記録において光の回折限界を超える記録再生方式の研究を提案し、実用化に向けて実験をしておりました。これは磁区拡大再生技術MAMMOS(Magnetic AMplyfiing MO System)というものですが、記録トラック上の磁区が光スポットで暖められると素早く動く性質を引き出したもので、この動きと今回の磁性細線場の磁壁の動きは類似していると考えました。したがって、細線作成には光ディスクの製造システムが流用可能に思えます。これによりさらに電流密度を低減することができます。また、これが実現すると極めて安価な製造方法になります。また、磁壁は高速に移動できる可能性も秘めており、高速記録再生、低消費電力(現行HDDの100分の1以下)、電力を使わない長期保存など多くのメリットを引き出せると考えています。これは科研費基盤研究B(KAKENHI 24360126)および若手研究B(KAKENHI 25820127)に採択され研究を加速することができました。
 一方、この磁壁の移動原理はTbFeCo磁性細線パターンでロジック回路も組むことができます。これがAの研究テーマです。演算に必要な基本機能AND, OR, NOT, FANOUTの原理実験に成功しており、これらの応用展開を目指しています。これも科研費挑戦萌芽研究(KAKENHI 24656219)に採択され、これも研究を加速することができました。メモリと同じ材料、駆動原理なのでメモリとロジックを一体化するのが容易なため人工知能への応用も期待しています。
 Bのテーマは1番目の逆効果を利用したスピン発電です。磁壁が動くならば伝導電子を駆動できる、すなわちスピン発電ができるはずです。これも科研費挑戦萌芽研究(KAKENHI26630137)に採択され研究を加速することができました。今後さらに発電メカニズムを明らかにして発電量の増大を目指します。
 Cの研究テーマは、磁性元素を使わないにも関わらず磁気光学効果や異常ホール効果、磁気抵抗効果など磁気的な性質が現れる非常に面白い研究です。これは、産総研の富永先生が長年研究していたGeSbTeからなる相変化材料をGeTe, SbTeの超格子を積層することでトポロジカル絶縁体になることを見出し、そのように電子状態が変わるのならば磁気光学効果にも影響があるのではと当研究室で測定したのが研究のきっかけです。これもJSTの大型プロジェクトCREST(富永グループ)に採用され、メンバーとして研究を掘り下げています。
 このように、実験を行うと次から次へと疑問やアイデアがわいてくるので面白い研究テーマが広がっています。なお、成膜から微細加工、表面観察、磁気情報測定、微細な電気信号測定、記録再生評価ツールなど自由に研究できる研究設備が整っています。











図1 IoT, 人工知能、ビッグデータによる第4次産業革命イメージ

 
      図2 データ量の需要予想図


                                図3 IT機器の電力需要予想図

 図4(a)2本の磁性細線の着磁状態の偏光顕微鏡写真
   (b)2本の磁性細線左端にそれぞれ1つ記録磁区を記録し
      パルス電流を印加したときに記録磁区が電子の流れの方向に動いた状態
   (c)更にもう1つ磁性細線の左端に記録磁区を形成してからパルス電流を印加すると    
      新しい記録磁区も前回の記録磁区も同時に同じ長さ移動している。


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