直動型脚筋機能測定機


1.はじめに | 2.筋の評価方法 | 3.試作装置概要 | 4.脚のインピーダンスの測定 | 5.まとめ


Abstract-This article deals with a measuring machine for the characteristic evaluation of a leg. The machine is driven with a coreless linear motor and controlled by the impedance control. It can be used not only the measuring machine but also the training one. A leg was considered as the second order system in a short range. While a foot was moved at a constant velocity, the force at the foot, the displacement and the acceleration were measured. Both the spring constant and damping coefficient were decreased with an increase of the femoral angle. Then a transition of the parameters by exercises is measured. After the first exercise, the spring constant steeply increases. The spring constant was decreased once because of the rise of the muscle temperature. The damping coefficient was almost flat.
Key words-evaluation of leg, impedance control, modeling, skeletal muscle.


1.はじめに

 近年,人間を中心に据えた生産システムが要求されている.繰り返し単純作業が多い生産現場では,作業を通じて,作業効率・疲労回避・疲労回復を促すことが望ましいと考えられる.そのため,作業効率・疲労回避・疲労回復の目安を,運動が骨格筋の形態や機能に及ぼす影響として,運動刺激に対する筋収縮機能の評価が必要となる.一方,近年,日本では急速に高齢化社会に移行しつつあり,寝たきりとなる高齢者の割合も年毎に増加傾向にある.そのため,高齢者の脚の運動機能を回復するための様々な訓練システムの研究が行われている.

 脚の運動機能を効率よく回復するためには,運動刺激に対する筋収縮機能を常に評価,把握することが望ましい.骨格筋は,非常に大きな力を発生することが可能なアクチュエータと考えることが出来る.しかも,単に力を発生するだけのものではなく,ばねやダンパのような性質も併せ持っている.例えば,骨格筋を活動させると筋は硬くなり,逆に力を抜いてリラックスするとやわらかくなるという粘弾性要素の性質を持っている極めて特殊なアクチュエータと考えることが出来る.筋の機械インピーダンスは,発生張力,長さ(関節角度),短縮速度に依存する.

 また近年,上肢運動に関しても腕の機械インピーダンスの測定が盛んに行われている.これらの研究のほとんどがインピーダンス制御を用いた機械インピーダンスを自由に調節できる装置を独自に開発している.

 本研究では,加速度・速度・力の変化を測定できる運動負荷装置を試作し,脚の動的筋収縮機能である運動耐容能を評価することを目的とする.本稿では,試作した直動型測定機の性能と,これを用いてリラックス状態での脚の骨格筋のデータを測定し,脚全体の屈曲動作における機械インピーダンスを推定した結果について述べる.装置は直動型とし,アクチュエータにはリニアモータを使用する.筋のパフォーマンスを評価するために,脚に対するさまざまな負荷をアクチュエータを能動インピーダンス制御することにより発生させる.

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2.筋の評価方法

 筋の評価方法としては,大別して静的筋収縮能力の評価と,動的筋収縮能力の評価によって表される.現在,一般的に行われている評価方法は,スポーツテスト等で行われる背筋力測定,握力測定等の静的筋収縮能力の評価をする方法であるが,今回は運動耐容能の測定を行うため動的運動能力を評価する装置を試作する.その方法として,

(1)一定の筋収縮力を保ち反復運動する場合の筋収縮速度と回数の低下を見る.

(2)一定速度で最大筋力を反復して発揮して筋収縮力の低下曲線を見る.

という方法を用いる.そのため,試作装置は,筋収縮の速度,力およびパワー(速度×力)の変化を評価,分析可能なものとする.

 今回試作した装置による運動の種類は,直動型の踏みつけ屈曲−伸展運動とした.この場合,エルゴメータ等を使った運動である回旋運動を行う動作と比べて,ほとんどの人が日常的に無意識で行っているいすに座っている状態から立つ動作と同じ速度であるので,装置使用に特別な訓練を必要としない.

(a) Rotational motion
(b) Linear reciprocating motion
Fig. 1 Motions for leg evaluation

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3.試作装置概要

3.1 装置の構成

 Fig. 1に直動型測定機の概略を,Table 1に仕様を示す.本装置は直進1自由度の運動をする.装置のスライダ部の最大発生推力は450N,最高速度は5m/s,最高応答周波数は5Hzである.アクチュエータには,タイミングベルトやボールねじのような機械的伝達効率の問題を避けるため,ダイレクトドライブであるリニアモータを使用した.

Fig. 2 Schematic view of linear type measuring machine for leg performance

Table 1 Specifications of linear measuring machine

Maximum instantaneous speed 8 m/s
Nominal speed 5 m/s
Maximum instantaneous thrust 450 N
Nominal thrust 140 N
Band width 5 Hz

 被験者は仰向けに寝る.Fig. 1の斜線部踏板に力をかけ,このときの力をロードセルで測定し,脚の動きにあわせて動くスライダの位置,速度,加速度をそれぞれリニアエンコーダ,リニアモータアンプの速度出力,加速度ピックアップにより検出する.負荷として運転する場合の制御法式はインピーダンス制御とし,外部から力を加える場合や脚に対するやわらかさや硬さなどを伴わない単純な動きの制御の場合にはPI制御とした.インピーダンス制御では仮想ばね定数が5kN/m以上,仮想粘性係数が300Ns/m以上の範囲では仮想質量をほぼ0kgから15kgの範囲で実現できる.踏板とヒトのかかとは,安全面を考慮して固定しなかった.

3.2 試作装置の制御原理

 脚筋のパフォーマンスを評価するにあたり,脚に対する様々な負荷を制御する.そのための,制御方法として,能動インピーダンス制御を適用する.インピーダンス制御を実現するためシステムを同定した.モデルをFig. 2に示す.実験的に摩擦力とスライダの絶対速度の関係を測定したところ,0.05(m/s)以下では摩擦力が一定で,それを越えると直線的に増加することがわかった.そこで,高速時には粘性摩擦の影響が大きくなるので固体摩擦の影響を無視し,低速時には固体摩擦の影響を考慮することにした.

 以上のことを踏まえて,インピーダンス制御を行い,実際の試作装置が外力に対し制御可能な望みのインピーダンスの範囲を確認した.実験は試作装置に外力Fを与え望みのインピーダンスを設定して,そのときのスライダの動きとシミュレーションとの整合性を比較した.

 Fig. 3に実験結果を示す.実験では試作装置に外力Fを与え,望みのインピーダンスを設定してそのときのスライダの動きと,シミュレーションとの整合性を確認した.望みの粘性係数が小さい場合,実験的に求めた装置の粘性係数と真の装置の粘性係数との誤差が大きいので,シミュレーションとは一致しない.ばね定数が大きい場合,ばね張力項が大きくなるので,粘性項の影響が小さくなり,制御は安定する.また,粘性係数およびばね定数がともに大きい場合,リニアモータの駆動力が不足する.

Fig. 3 Example of impedance control (desired mass = 16 kg, spring constant = 8 kN/m, Damping coefficient = 100 N/(m/s))

 

Fig. 4 Controllable range of mass, damping coefficient and spring constant by impedance control

 脚の機能評価を行う場合,ある程度の負荷を加え運動及び測定を行うので,Fig. 2に示す制御可能範囲であっても問題ない.また,脚に対するやわらかさや硬さなどを伴わない単純な動きの制御の場合,PI制御でも十分使用が可能である.

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4.脚のインピーダンスの測定

4.1 弛緩時のインピーダンス

 外力に対する脚のインピーダンスを推定した.脚の伸縮には1つの筋しか用いないため,微小距離しか動かさない場合には1次系に近似しても問題ないと考えられる.そこで,脚全体を一つの質点と見立てたモデルとした.モデルの運動方程式は

m(d2x/dt2)+c(dx/dt)+kx=f      (1)

である.ただし,mは等価質量,cは等価粘性係数,kは等価ばね定数,xは踏板変位,fはリニアモータ推力である.被験者Aは29歳の健康な男性で,身長185 cm,体重75kg,股下長90cm,片足質量11.6kgである.寝台に仰向けに横になった状態で固定した踏板部に脚のかかとを乗せ,脚がリラックスした状態から踏板を屈曲方向に動かして測定を行った.測定点は9点とし,寝台と大腿部の角度がおよそ20°〜40°の範囲で行った.測定はそれぞれの関節角度で踏板を5cmずつ動かして行った.踏板速度は0.1m/sで一定になるように制御した.時間が経過するに従って踏板部の動きに対し脚を意識し,筋肉が緊張するという不具合が生じる恐れがある.そこで,機械的インピーダンスは,踏板部が動き始めから0.2sの範囲のデータを用いて最小二乗法により算出した.水平方向と腿の角度の変化に対するインピーダンス実験結果をFig. 3に示す.屈曲方向に変位を与えた場合には,リラックス状態でのばね定数,粘性係数は,ともに関節を曲げるにしたがって減少した.

 

4.2 運動時のインピーダンスの変化

 運動刺激を与えた場合の,骨格筋のインピーダンス変化を測定した.測定は運動刺激を与えた直後に行い,2つの関節角度について行った.被験者は被験者Aと,22歳の健康な男性で,身長166cm,体重87kg,股下長75cm,片足質量13.5kg(以下被験者B)の2人について測定した.運動では,座った状態で足首に添えた25kgのおもりを膝の屈伸により上げ下げする運動を1秒ごとに繰り返した.1回の運動で,1分間30往復繰り返す.運動のサイクルは,運動(1分)→測定準備(1分)→測定(1分)→運動準備(1分)の計4分とし,8回行った.この時のインピーダンスの推定結果をFig. 4に示す.同図(a)より,筋のばね定数は運動刺激を与えない場合と与える場合で大きく増加する(図中C→D).その傾向は関節角度,被験者の違いがあっても同じであった.また,被験者A,Bともに,ばね定数がEA,EB点で一旦減少した.一般に,ヒトの筋の温度は3〜5分の運動で飽和すると言われており,この時間と今回の測定までの総運動時間がほぼ一致する.このことから,筋の温まりによるほぐれが考えられる.この他に被験者の慣れ等による誤差が考えられる.また,粘性係数は運動刺激を与えてもほぼ一様の値を示した.

Table 2 Conditions of subjects

Subject A B
Age 29 22
Height cm 185 166
Leg length cm 90 75
Body weight kg 75 87
Weight of a leg kg  11.6 13.5

 

(a) Load
(b) Displacement
(c) Velocity
(d) Acceleration
Figure 5. Example of measured data

 

Figure 6. Relationship between measured mechanical impedance of leg and joint angle

 

(a) Spring constant
(b) Damping coefficient
Figure 7. Relationship between mechanical impedance of leg and exercise cycle

 また,本装置は測定機としての機能の他に,アクチュエータを制御することで可変負荷装置としての機能も持つ.そこで,被験者Aについて運動から測定までの全ての工程を機上で行った.その傾向は関節角度,被験者の違いがあっても同じであった.また,被験者A,Bともに,ばね定数がEA,EB点で一旦減少する.一般的にヒトの筋の温度は3-5分の運動で飽和すると言われており,この時間と今回の測定までの総運動時間がほぼ一致する.このことから,筋の温まりによるほぐれが考えられる.この他に被験者の慣れ等による誤差が考えられる.また,粘性係数は運動刺激を与えてもほぼ一様の値を示す.インピーダンスの推定結果は,従来法による運動の実験結果と同様であった.

(a) Displacement
(b) Load
Figure 8. Applied load in forced exercise

 

Figure 9. Relationship among spring constant, damping coefficient and exercise cycle in forced exercise

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5.まとめ

 ヒトの脚の骨格筋は,外力に対しリラックスした状態の屈曲運動において以下のような特性を持っていることが明らかになった.

(1) 関節角度により,ばね定数,粘性係数は変化する.

(2) 運動刺激を与えることで,筋のばね定数は高くなる.これは筋が硬くなることと対応する.

 また,本論文で試作した装置は,運動から測定までの一連の実験を全て同一機上にて行うことが出来る.

 本研究は,豊田工業大学・斉藤満教授との共同研究です.

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Last modified on 08/06/2003 at 15:38:19 by Katsushi Furutani