液中放電による硬質粉体の分散を利用した砥粒層の形成

2.圧粉体電極を用いた液中放電加工による砥粒層の形成法

2.1 砥粒層の形成法

 高硬度な結合剤であるビトリファイドボンドを用いた研削砥石の砥粒層は,砥石3要素と呼ばれる砥粒,結合剤,気孔によって構成されている.

 一方,圧縮成形したWC-Co粉末やチタン系粉末などの導電性粉体を電極として放電加工することにより,堆積加工が可能であることが報告されている.特に,WC-Co圧粉体電極を用いると,数分で1[mm]程度の厚い堆積層が得られることが知られている.この場合には主に堆積を目的とする一次加工と,溶融・再結晶化による高硬度化を目的とする二次加工が行われる.一次加工後の堆積層は,硬度は若干弱いが,気孔を多く含んでいる.

 本論文で提案する放電堆積加工による砥粒層の形成原理をFig. 2に示す.これまでは導電性粉体のみで構成されていた圧粉体電極中に,絶縁体である硬質粉体を混入する.圧粉体電極は放電により崩され,これを構成する粉末が極間に供給される.主成分であるWC-Coは放電の熱により溶融され,被処理材上に到達した絶縁性粉末とともに堆積される.これにより,絶縁性粉体を含んだ堆積層が形成される.砥石3要素に対しては,砥粒が硬質粉体,結合剤がWC-Co堆積層,気孔が堆積層中の気孔に相当する.

Fig. 2 Principle of fabrication of abrasive layer by electrical discharge machining

 本製作法により次のような効果が期待できる.

(1) 砥石のリサイクル

 砥石は加工中の摩耗だけでなく,ツルーイングやドレッシングでも摩耗する.Fig. 3に示すように,放電表面処理によって砥粒を含んだ堆積層を摩耗した層の上に形成することにより,元と同じ形状を持つ砥石とすることができる.

Fig. 3 Recycling process of abrasive layer

(2) 砥粒保持力の向上

 従来の砥石では,砥粒保持力が十分でないため,被加工物の材質によっては砥粒が摩耗する前に脱落することがある.放電堆積加工では,硬度,ヤング率の高いWCおよびTi系堆積層を形成できる.したがって,従来のメタルボンドに用いられている鋳鉄,Ni結合剤や鋳鉄ファイバよりも材料強度が向上し,砥粒保持力が向上することが期待できる.

(3) 研削加工機上の処理

 放電加工装置を研削加工機上に設置することで砥石を外すことなく,機上で再生加工ができる.

 提案する方法で製作された砥石をツルーイングまたはドレッシングする場合には,結合剤が硬いWCであるため,ダイヤモンドドレッサなどを用いず放電加工や電解加工により導電性結合剤のみを除去する方法が有効であると考えられる.

2.2 形状フィードバック型加工法による砥石の再生

 研削砥石のリサイクルには形状フィードバック型加工7)を適用する.位置決め制御においては,制御対象の位置をフィードバックすることで高精度な位置決めを実現している.この概念を加工システムに導入したのが形状フィードバック型加工システムである.本システムでは,位置決め制御の目標値が設計形状であり,制御対象が製品形状となる.補償器,アクチュエータにあたるのが除去加工および付加加工である.フィードバック要素は機上形状測定装置となる.

 これを軸付砥石を用いた研削加工およびその再生を含めた全体プロセスに適用した場合をFig. 4に示す.枠内のプロセスに同システムの概念を適用する.まず,台金に砥粒層を放電堆積加工する.堆積層の厚さを機上計測し,所望の厚さより厚い場合には通常の銅電極などを用いた放電加工による除去加工を行い,薄い場合にはさらに圧粉体電極を用いて放電堆積加工を行う.これを繰り返し,公差内に収まったらその砥石を研削加工に用いる.研削後,砥粒層が使用限度以上に摩耗した場合には,再生プロセスに戻る.これを繰り返すことで,台金の寿命になるまで使用することができる.したがって,台金に高価な材料を使用することも可能になる.

Fig. 4 Total process with mounted wheel including grinding and recycling

 実際には,研削前に放電によりツルーイングをする必要があるので,最初の放電堆積加工では砥粒層を厚めに付着させる.


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Last modified on 07/26/2003 at 08:46:30 by Katsushi Furutani