基礎実験において本製作法の有効性が確認できたため,Al2O3以外の砥粒材料の適用を試みた.実験に用いた砥粒をTable 4に示す.SiC以外は絶縁体である.ニッケルを被覆したcBNは結合剤であるWCとの密着性の向上が期待できるため用いた.粒径100[μm]以下の絶縁性粉体を混入した場合には,加工時間が5[分]で堆積層の厚さは約300[μm]であった.しかし粒径が200[μm]程度になると,極間に絶縁性粉体が挟まり極間距離を縮められなくなる場合がある.そのため放電が不安定となり,均一な堆積層が形成されなかった.SEMおよびEDXで観察した結果では,全ての材料で粒径が10[μm]程度まで小さくなると堆積層中で観察される量が少なくなる傾向が強かった.これらの砥粒の粒径,密度,熱伝導率,熱膨張係数,融点,実用使用上限温度,抵抗率などの物性値を比較したところ,粒径がある程度大きく,熱伝導率が小さいものほど堆積層中に存在するという傾向が得られた.放電加工による除去加工特性には融点(または昇華温度)と熱伝導率の積が影響するという報告がある.しかし,本実験で用いた物質の熱伝導率以外の熱的特性である融点および比熱はほぼ同程度であり,本実験からはこの影響は明らかにならなかった.
Table 4 Various abrasive grains and their compression and electrical conditions for deposit
Grain | Diameter [μm] | Electrical property | Compression conditions | Electrical conditions | |||
Blend ratio [wt%] | Pressure [kN] | Discharge current [A] | Pulse duration [μs] | Pulse interval [μs] | |||
Al2O3 | 200-250 | Insulator | 10, 15 | 88 | 23 | 8 | 1024 |
70-100 | 10, 15 | 88 | 23 | 8 | 1024 | ||
SiC | 200-250 | Conductor | 10, 15 | 88 | 23 | 8 | 1024 |
70-100 | 10, 15 | 88 | 23 | 8 | 1024 | ||
20-30 | 10 | 108 | 23 | 8 | 1024 | ||
9-14 | 10 | 108 | 23 | 8 | 1024 | ||
2-6 | 10 | 108 | 23 | 8 | 1024 | ||
Diamond | 4-6 | Insulator | 10 | 88 | 10 | 4 | 512 |
80-100 | 10 | 88 | 35 | 8 | 1024 | ||
Ni-coated cBN | 3-12 | Conductor | 10 | 88 | 10 | 4 | 512 |
cBN | 4-8 | Insulator | 10 | 88 | 10 | 4 | 512 |
80-100 | 10 | 88 | 35 | 8 | 1024 | ||
ZrO2 | 20-50 | Insulator | 10 | 88 | 23 | 8 | 1024 |
Si3N4 | 20-50 | Insulator | 10 | 88 | 15 | 8 | 512 |
B4C | 50-75 | Insulator | 10 | 88 | 10 | 4 | 512 |
Polarity of electrode: Negative
実験した砥粒を粒径と熱伝導率の範囲で整理した結果をFig. 8に示す.堆積層中に存在する砥粒の範囲は右下の破線でほぼ分けられ,それより上の範囲の砥粒は堆積層中に分散していることが観察された.数10[μm]程度の粒径を持つ砥粒は,極間から排出されにくく,堆積層中に分散しやすいと考えられる.熱的な物性に関して考えると,Al2O3やSiCはダイヤモンドやcBNに比べ,熱伝導率が2桁近く小さい.そのため,熱伝導率が小さく,粒径が大きいほど,加工液中で冷却されにくい.また,熱伝導率が結合剤の主成分であるWCよりも砥粒の方が小さいため,熱は砥粒内よりもWC内で伝導するほうが大きい.その結果,周囲のWCは溶融堆積し,砥粒を保持するようになると考えられる.ダイヤモンドやcBNでは熱が砥粒内を伝導するため消滅しやすくなり,堆積層中に観察されなかったと考えられる.#60のAl2O3およびSiCでは,公称粒径が200〜250[μm]である.しかし実際にSEMで観察すると,長手方向で500[μm]を超えるものもあった.極間距離より砥粒の粒径の方が大きい場合が生じるため,放電が安定しなかった.また,堆積した場合でも堆積層の厚さは均一ではなかった.したがって,堆積可能な粒径の範囲は熱伝導率にもよるが10〜100[μm]程度であると考えられる.
Fig. 8 Deposit range of grain size and thermal conductivity |
Last modified on 07/26/2003 at 08:46:30 by Katsushi Furutani