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社会連携研究推進事業 高分子構造物性相関高度解析センター

社会連携研究推進事業 高分子構造物性相関高度解析センター

センターの概要

平成17年度:事業発足
センター長:田代 孝二
 

研究の目的と社会的ニーズ

研究趣旨

本研究は、私立大学学術研究高度化推進事業・社会連携研究推進事業「高分子構造物性相関高度解析プロジェクト(高分子構造物性相関解析センター)」(平成17年度~22年度)としてスタートしました。このプロジェクトでは、高分子の複雑な構造と物性の関わりを様々のスケールから徹底的に解明し、新しい高分子材料の創出を目指します。

研究内容

私たちが日常さりげなく使っている高分子が、時によってはスチールよりもはるかに強力な材料になること、ご存知でしたか?その原因を徹底的に追究することは、一層優れた物性をもった新しい高分子材料の開発につながるはずです。本プロジェクトでは、「高分子構造物性相関解析センター」を設立し、X線、電子線、中性子、振動分光、光散乱、原子間力顕微鏡、コンピュータシミュレーションなど数多くの実験手法に理論展開を有機的に織り交ぜつつ、原子分子のレベルから結晶、非晶、高次組織にまで至る様々の観点から、複雑な高分子の階層構造を総合的に解析すると共に、それらの構造が物性とどのような機構を通じて関わっているのかを徹底的に明らかにしようとしています。さらにはメルト状態からの結晶化、温度変化に伴う相転移など時々刻々変化する過程をX線散乱や振動スペクトルの高速測定によって追跡し、階層構造を発現させるメカニズムについても明らかにします。このような取り組み方は世界的にも極めて稀でして、希望する物性をもった高分子材料の創生を構造制御の立場から可能にさせるだけにはとどまらず、高分子科学および高分子工業をさらに飛躍させる上にも極めて重要です。本プロジェクトは多くの企業との共同研究を主眼として展開されますが、プロジェクトで育まれた高分子構造物性相関解明の技術が世界中の高分子研究者に広く利用されるようになることが私たちの使命であると、決意を新たにしています。

プロジェクト内容

(1) 合成高分子の分子構造、結晶構造、非晶構造からラメラ集合構造など高次組織、それらを包括した球晶構造に及ぶオングストローム~ナノ~ミクロンオーダーまでの階層構造について精密かつ高信頼性の構造解析を行うための新しい実験技術、データ解析技術および構造解析ソフトプログラムの開発を行う。
(2) これらの構造が実際の物性と如何なる相関を持っているかを定量的に把握し、構造から物性を予測するためのソフトを開発する。
(3) 様々の構造情報および構造物性相関の知見に基づき、従来よりもさらに優れた物性を有する新規高分子材料の設計ならびに実際の合成、加工を試みる。
(4) これらの研究を通じて、高分子関連企業(中小企業から大企業に及ぶ数多くの企業)の研究に役立つ重要な技術を、我が国から世界に向けて発信する。

開発メンバー

教授 2名 准教授 1名 PD研究員 4名 研究補助員 1名  

他、日本を代表する高分子材料関連企業約10社からの研究員派遣  

計8名
研究室名 メンバー
極限高分子材料研究室

田代 孝二 教授
山元博子 PD研究員/Thontree Kongkhlang PD研究員
Kummetha Reghunatha Reddy PD研究員 /

Tran Hai Ninh PD研究員

塙坂真 研究補助者

高分子ナノ複合材料研究室 岡本 正巳 准教授
フロンティア材料研究室 齋藤 和也 教授

設備一覧

2次元X線検出器 Hi-STAR (ブルカー)
小角光散乱装置 DYNA-3000(大塚電子)
単結晶構造解析用X線回折装置 R-axis Rapid-R(リガク)
RINT-TTR Ⅲ(リガク)(温度・湿度制御+DSC同時測定)

高速X線イメージングシステム高分子ダイナミックイメージ(リガク)
高輝度小角X線散乱装置NANO-Viewer(リガク)
X線イメージングプレートシステムDIP1000(マックサイエンス)
X線CCDカメラシステム Kappa CCD(ブルカー)
透過型電子顕微鏡(日本電子)
ラマン分光光度計 NRS-2100(日本分光)
プローブラマン散乱装置(LASERエコバイオ)
遠赤外分光光度計 FT/IR-6100FV(日本分光)
示差熱走査熱量計 DSCQ1000T (TAI)
原子間力顕微鏡 MFP-3D-SA-TI(生体分子計測研究所)
顕微鏡画像高速取得システム(三弘)
量子化学計算用並列計算機システム(ダイキン工業)
ディジタル光学顕微鏡(キーエンス)

具体的な研究課題・テーマ

(1) 高分子結晶構造の精密解析
(2) 高分子の結晶相転移挙動の解明
(3) 結晶化過程における秩序構造形成機構の解明
(4) 力学物性の分子論的解明および極限状態の力学物性評価
(5) 熱的性質の理論的計算
(6) ナノコンポジットの構造と物性の関わりの解明
(7) 無機ガラスの構造、転移ならびに光特性の解明

研究実施例

1.高分子結晶における水素原子位置の精密決定

数多くの高分子において、高分子鎖からは水素原子が張り出しており、従って高分子結晶の物性は水素-水素間相互作用でほぼ決まってしまいます。従って構造と物性との相関解明には水素原子位置の精密決定がきわめて重要となります。我々は、X線構造解析だけではなく、重水素化したポリエチレンやポリオキシメチレンなどについて放射光回折実験および中性子回折実験を行い、水素原子の位置を極めて精度高く決定することに世界で初めて成功しました。現在、ポリプロピレンなど数多くの高分子物質について解析を行っています。

2.秩序構造形成過程追跡のための同時計測システム構築

メルト状態からの冷却過程における構造の秩序化をはじめとし、高分子の秩序構造形成過程における構造変化を追跡する際、一つの測定手法を用いるだけでは偏った知見しか得られません。試料の周りに様々の測定装置を取り付け、同時にデータを収集する…完全に同一の条件下での構造変化の抽出には、この、いわゆる同時計測が絶対に不可欠です。我々は、予備実験として広角、小角X線散乱とラマンスペクトルの高速同時測定を行い、高分子の結晶相転移や固相重合反応過程における構造変化の追跡に成功しました。

3.シリカガラスの構造と物性の研究

非晶性高分子や無機ガラスは光ファイバー用材料として重要であるが、光ファイバーの高性能、高機能化を目指すためには、非晶質であることを最大限に利用し、その良い特質を導き出すことが肝心です。本プロジェクトでは、均一で高品質なシリカガラスの製造プロセスを新たに開発し光ファイバーの変換効率を一桁以上向上させることに成功しました。また、ガラスが取り組んでいる中心希土類イオンの完全性や光学特性がガラスの無秩序性の程度と大きく関わっていることを初めて明らかにしました。

4.ナノコンポジット

ポリマーにナノサイズの粘土を分散させることにより、いわゆるナノコンポジットが得られます。従来は、混合させることで物性変化がどの程度に変化するか、だけに注視した研究が大半でありましたが、本プロジェクトでは、例えば生分解性高分子のナノコンポジット化によって生分解性の効率を制御できること、粘土層による高分子の結晶化制御が可能であることなど、基本科学および工業の両観点から詳細な検討を行うことに成功しました。