エネルギー材料研究室では、固体物理学の知識を活用して、有用な機能性を生み出す材料の設計指針を構築する研究を行っています。 また、得られた設計指針を用いて、革新的な機能性材料とデバイスを創製する応用研究も行っています。

熱電材料

熱電材料とは,熱電現象(ゼーベック効果およびペルチェ効果)を用いて,熱と電気を相互に変換する材料です.ゼーベック効果を利用すると,熱から電力を生み出すことができます.この技術を使うことで,無駄に捨てられている排熱から電力を回収できます.化石燃料の枯渇問題,その燃焼に伴う地球温暖化ガス排出問題,東日本大震災に端を発する電力の価格高騰などの諸問題を大きく緩和させる技術として注目を集めています.しかし,発電効率の問題と利用される材料の価格や危険性の問題から,熱電発電技術は,広く普及するに至っていません.安価で安全な材料を用いて,高い変換効率を有する熱電発電素子の開発が強く望まれています.


熱電発電の効率は,発電素子内で利用される材料の物性(ゼーベック係数S,電気伝導度σ,熱伝導度κ)から決定される無次元性能指数(ZT=S2σT/κ)の増加関数になっています.すなわち,良い熱電発電素子を開発するためには,大きなZTを示す材料を創製することが求められます.しかしながら,材料の物性が互いに相関しているために,ZTを増大させることは容易ではないことも知られています.例えば,ゼーベック係数,電気伝導度,電子熱伝導度は,電子構造(伝導電子の量子状態,エネルギー分布,運動量分布),キャリア濃度,電子散乱により決定されていますが,一定の電子構造下では,ゼーベック係数がキャリア濃度の減少関数であるのに対して,電気伝導度や電子熱伝導度がキャリア濃度の増加関数になっているために,キャリア濃度を変数として単純にZTを増大させることは困難であると認識されています.さらに,熱電材料で観測される物性は,教科書に書かれているような物性の式では説明できない場合がほとんどです.その結果として,熱電材料の開発研究は,組成や構造を変化させながら試行錯誤的に行われています.


豊田工業大学エネルギー材料研究室では,教科書的な数式において使われている電子構造に関する近似に問題があることに着目し,微細な電子構造を評価することで高性能熱電材料の開発につなげる研究を行っています.これまでに,熱電材料を高性能化させる設計指針を提案するとともに,提案した指針に基づき,安価で環境に優しい合金系で,既存の熱電材料に匹敵する性能を示す熱電材料を創製することに成功しました.さらに,現在は,設計指針を高度化するとともに,既存の材料の性能をはるかに凌駕する熱電材料の開発に取り組んでいます.

熱整流材料(熱ダイオード)

省エネルギーの観点から,廃熱を必要な箇所に運び有効利用する考え方(熱マネージメント)が注目されています.熱流を任意の方向のみに流すことが可能な素子[熱整流材料(熱ダイオード),熱スイッチ]を作成することができれば,熱マネージメントにおいて中核的な役割を果たすことが期待されます.


2006年に,熱伝導度の温度依存性の異なる2つの材料を組み合わせることで熱整流効果が得られることが理論的に指摘されました.提案された機構を用いて熱整流効果を大きくするためには,熱伝導度に顕著な温度依存性を示す材料を利用する必要がありますが,一般的な固体材料では室温以上の温度領域で熱伝導度の温度依存性は顕著ではなく,この機構を用いた熱整流材料の開発は格子熱伝導度の温度依存性が顕著になる200K以下に限られていました.熱整流材料の利用による省エネルギー化の実現のために,室温以上で熱伝導度が顕著に変化する材料の開発と,それを利用した高性能熱整流材料は開発が強く望まれています.


金属や半導体内を流れる電子は,電荷とエネルギーを運ぶため,電気伝導度σと電子熱伝導度κelには密接な関係があります.実際に,電気伝導度σと電子熱伝導度κelの関係は,古くから,ビーデマン・フランツ則(κel= L0σT,L0はローレンツ数と呼ばれる定数)により説明されることが良く知られています.


豊田工業大学エネルギー材料研究室では,フェルミエネルギー近傍の状態密度に顕著なエネルギー依存性がある場合に,ビーデマン・フランツ則では説明できない電子熱伝導度の顕著な温度依存性を示すことを明らかにしました.また,この以上な電子熱伝導度を利用することで,高温で熱伝導度が1桁以上変化する材料の開発に成功し,それを用いて,2倍以上の整流効果を示す熱整流材料の開発に成功しています.


上述した研究を発展させ,現在,熱整流材料の性能をさらに向上させる研究と,熱流を調整可能な新しい素子(熱スイッチ)の研究を行っています.

超伝導材料

1911年に発見されて以来,超伝導現象は基礎・応用の両面で活発に研究されています.1950年代には,超伝導現象を説明するBCS理論,および超伝導特有の性質を記述するGL理論(現象論)などにより,超伝導の基礎理論が確立しました.応用面では,強磁場発生装置としての利用が進められ,MRIや超伝導リニアモーターカーなどに利用されています.また,送電線としての利用も進められています.さらに,SQUID磁束計としての利用も行われています.


1986年に発見された一連の銅酸化物高温超伝導体は,BCS理論で説明可能な超伝導臨界温度 Tc(<40 K)よりもはるかに高いTc を示すことで,脚光を浴びました.Tcが高いことは,冷却コストを抑制できることを意味しますので,特に,応用面から期待されています.また,超伝導臨界温度は高い方が良いので,さらに高い超伝導臨界温度を得るための研究が世界的に行われています.1993年には,水銀を含む銅酸化物において135Kの超伝導臨界温度が得られることが報告されています.また,ごく最近,水素を含む物質において,200GPa以上の超高圧力下ではありますが,室温を超える超伝導を示すことが報告され,広く注目を集めています.


BCS理論で説明できない超伝導臨界温度を示す銅酸化物高温超伝導体発見からすでに30年以上が経過したにも関わらず,超伝導臨界温度が40Kを超える正確な理由は未だ解明されていません.(常圧下における)室温超伝導の実現のために,高い超伝導臨界温度が得られる理由の解明が強く望まれています.


豊田工業大学エネルギー材料研究室では,超伝導体中の電子の運動量分布,エネルギー分布,準粒子状態の寿命等を解析可能な角度分解光電子分光装置を利用して,高い超伝導臨界温度が得られる理由を解明する研究を行っています.

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